大陸軍の戦略・戦術
2、勝利への戦略五原則
~先駆者の理論を集大成~
 

「戦略とは時間と空間の利用技術である」
これはナポレオン自らの言葉である。さらに、こうも言っている。
「戦争の原則は攻城戦における原理と同様である。火力は一点に集中するべきであり、突破口が開かれ均衡状態が破れれば、他の事は問題ではない」
ナポレオンの軍事的業績が、決して彼一個の創造でないとは、しばしばいわれることである。すなわち、ナポレオンは「刷新」を行ったのではなく、「改善と完成」を成し遂げたというのである。

ナポレオンは、ブーリエンヌ士官学校在学中から少尉に任官してオーソンヌのラ・フェール砲兵連隊に勤務するまで、むさぼるようにして読書に励んだ。その中にはギベール伯が若干29歳にして著した「戦術概論」「近代戦における防禦」や、ブールセの「山岳戦の原則」などが含まれていた。また、フリードリヒ大王の著作なども熱心に読みふけっている。

ギベールは著書の中で、敵国の限られた領土を一時的に征服して講和を有利に進め、国力を疲弊させた挙句に若干の領土を得るという、18世紀当時の戦争のあり方を厳しく批判した、そして恐るべき予言を行った。
「ヨーロッパに覇権を打ち立てるのは、国民軍を徴募する国家以外にはなく、真に強い軍隊とは国民的なものであり、プロイセンの如く傭兵や兵への懲罰によって成り立つ軍隊ではない」というのである。この予言は、スイスなど一部の例外を除けば達成され、史上初の国民軍を組織したフランスは、ナポレオンのもとに全ヨーロッパを席巻した。また、それまでの衝撃力重視の縦隊攻撃に戦況に応じて横隊へ展開できる「混合隊形」を加えるように提唱したのもギベールであった。

またブールセは、混合兵種から成る一種の師団とそれによって実現できる機動力向上の優位性を説いた。
あるいは、ナポレオンのオーソンヌ時代に、当地の砲術学校校長であったティユ少将は戦場での砲兵の運用、特に砲兵火力での集中使用の重要性に着眼していた。

「国民軍」「混合隊形」「分進合撃」「砲兵火力の重視」など、ナポレオンのお家芸とされたものは、すべて彼の先駆者たちが唱えてきたものであったといえる。
すなわち、若き日にこれらの戦争理論を研究し、それを実際の戦場で応用し、独自の工夫を加えて完成させたのがナポレオンであった。ナポレオンは、自分自身の戦争理論や戦略・戦術論を、まとまった著作としては残していない。したがって、これが「ナポレオン戦略」であるという一種の公式めいた物を提示することには困難が伴う。
しかし、彼の戦争における事実と結果を積み上げるならば、概ね下記の五つの点が、ナポレオン戦略の中核原則であったと思われる。

     ① 作戦軍は同一の作戦目標を持つこと




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