プロイセン首相時代 ~首相就任~ |
「仕事は多く、幾分疲れるし、十分には眠れないが、何事も最初は難しいものだよ。だが神のお力添えのおかげで少しずつよくはなってくるだろうし、現に今はいい感じだよ。ただ、常に注目され続ける生活という物は幾分嫌なものだね」 ビスマルクの首相就任に対するプロイセン国内の反応は冷ややかなものだった。反動主義者にして時代錯誤的な「封建的」利害の代弁者、これが彼の評判であった。そんな「田舎者ユンカー」に、軍制改革問題に端を発する国家の一大事を解決することが果たしてできるのだろうか。大勢はそれに否定的な観測をしており、この政権は長続きしないとみられていた。
だからといって、ビスマルクの首相就任を単に状況の変化のなせる業として片づけるのは、あまりにも彼を過小評価するものである。王妃アウグスクの助言もあってビスマルクに対する警戒心を払拭できなかったヴィルヘルム1世が最後の拠り所としたのは、君主主義への絶対的忠誠という彼の保守的なスタンスであり、彼が有する伝統的な側面であった。これがなかったならば、彼は首相はおろか外交官にすらならなかったであろう。しかしながら、もし彼が丹南流保守的な人物でしかなかったならば、国家の非常時に首相に抜擢されることもなかったであろう。ヴィルヘルム1世もローンも最後は、保守的でありながら何をしでかすかわからないビスマルクに賭けたのである。それらの点を見逃してはならない。 |