大陸軍の戦略・戦術
2、勝利への戦略五原則
② 敵野戦軍主力の撃滅を
作戦の第一目標とすべき
 

ナポレオンは多くの戦役において、第一の作戦目標を敵野戦軍主力の撃滅に置き、そのために全力を挙げた。敵国領土の面的な占領や特定の都市の奪取は、どちらかと言えば二の次であった。ある意味でこれは非常に合理的な考え方である。

ナポレオンと同時代の軍人であり、戦略研究家として名を成したジョミニは、「古来慣例的になっていた地域奪取思想を打破して、敵野戦軍の撃滅に注力した」ナポレオンの戦略目標設定の妥当性を賞賛して、次のように述べている。
「命運を賭する会戦を始める場合、第一義とすべきは敵を打破し殲滅に努力する事である。国や州が自衛のための組織的兵力を喪失した場合、滅亡は免れ得ない」
そしてこれは、18世紀までの戦争理論から見れば画期的なことであった。

それまでの戦争は、その時間の多くを攻城戦に費やすのが常であり、また、軍隊の養成と維持に莫大な経費がかかった為、容易な事では主力同志の戦闘が生起しなかった。ギベールに先立つフランス陸軍の改革者として名高いサックス元帥の見解は、次のようなものである。
「特に戦争の初期には、全力を挙げての戦闘を好まない。有能な将軍であれば、生涯、強制されずに戦争ができると確信している」

革命以後、徴兵制度による安価な軍隊が常態となったので、ナポレオンは前世紀の将帥たちの様に決戦回避思考を実践する必要がなかったのである。




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