(2019.3.21)
イチロー引退試合と引退記者会見

イチローが引退した。
昭和45年生まれの私より3歳年下のイチローは、ほぼ同年代である。

私にとって子供のころのプロ野球のヒーローが王貞治氏であり、それに続く存在が山本浩二、江夏豊、山田久志、掛布雅之、江川卓などであったが、あくまでも子供のころの目線で接する存在であり、下から仰ぎ見るような存在でしかなかったと思う。
私が成人してからのプロ野球の英雄は、本来ならば清原和博がそうなるべきであったが、彼は選手後半の不摂生や不行状などが祟った挙句、あのような忌まわしい事件を起こし、英雄には程遠くなってしまった。
そんな私が英雄だと思った選手は、野茂英雄である。近鉄時代から奪三振記録を塗り替え、メジャーに行っても愚直なまでに速球とフォークでの勝負にこだわる姿が、私の20代では最も輝かしい存在であった。
野茂英雄は昭和43年生まれだから、私の2歳上。英雄と仰ぎ見るには年齢的にもちょうど良い存在であった。

その野茂よりさらに、日米球界にプレイ自体でも記録の上でも衝撃を与えたのがイチローである。
イチローは、実質デビュー年の3年目に当たる1994年、打率385、安打数210本というとびぬけた記録を残し、以降も日本球界においては7年間も首位打者を独占し続けるという、それまでにない傑出した存在であった。
イチローも野茂同様にメジャーへ行く。以降、多くの一流プロ野球人がメジャーでプレイしたが、メジャーリーグで本当の意味で強い影響を与えたのは、いまだ野茂とイチローだけだと思う。
なぜなら、イチローはメジャーのみで3000本安打を記録し、ついには日米通算安打でピートローズを抜き、プロ野球選手としては(残っている限りのではあるが)史上最も安打を打った選手となった。
イチローはメジャーでも2回首位打者を獲得している。1年目は首位打者と盗塁王を獲得してMVPだし、2004年には262安打というメジャー記録を打ち立てた。
打つだけではなく、守備走塁でも超一流のアスリートであり、その存在はメジャーでも傑出したものだったはずだ。つまり、メジャーでも超一流の存在であったと断言できる。
ここまでの存在であった日本人メジャーリーガーはいない。野手でいえばレギュラーで数年間以上活躍できたのは松井秀喜と青木宣親くらいであるし、この両名だって日本での傑出度に比べれば正直並の成績だった。もちろん、一プレイヤーとしてのチームでの存在は素晴らしいものがあったが、傑出度という点では残念ながらそこまでのものはなかった。
投手では、野茂英雄は2度奪三振王を記録している。タイトルを取ったのはほかにはダルビッシュだけではないか?田中将大、黒田博樹、前田健太などはローテーションに定着し、一定以上の存在感は示してはいるが、傑出した存在になったとは正直言えないと思う。

イチローの存在というのは、平成年間あらゆるスポーツ界の選手の中でも傑出した存在だったと思う。20数年間、ほぼ平成の間その存在感を示してきたのである。
そのイチローが引退というのは、やはり大事件である。平成が終わり年号が令和になること以上に…。

ただここ数年のイチローについては、ジレンマがあった。
もともと私は、イチローの大ファンというわけではない。野茂英雄は終始ファンといえる存在であった。野茂は三振を奪いまくるその反面、四球を連発し、時には大ホームランを浴びて一敗地にまみれることもしばしば。だが、そんな不器用さというか、アンバランスさというか、欠点と長所がはっきりしているからこそ、思い入れが強くなった。
イチローはそういうことはない。長打力こそ不足しているが、打撃技術、走塁、守備、肩など、ほぼすべての面で一流である。それも超がつくほどに。あまりに完璧すぎる存在であり、活躍して当たり前である。活躍を目の当たりにはしていたが、ファンというほどの思い入れは存在しない。
それどころか、むしろCMに出まくったり(平成で最もCMで印象的なタレントってイチローではないか?)、最晩年のマリナーズでの扱いといい、なんか腑に落ちないというか、やや鼻がつく感もあった。

そんなイチローが3月21日、東京ドームのvsアスレチックス戦(公式戦)で引退試合に臨んだ。
いい当たりを飛ばすこともあったが、ファールゾーンにしか飛ばない。しかも力みが明らかだ。かつては軽くフェアゾーンに打てたのが、もはやそれもかなわぬことになったのか。
結局安打なしで8回裏の守備に就き、そこで交代。東京ドームの観客からは彼の引退を惜しむ拍手と歓声が鳴りやまない。これを茶番という人も多くいたが、一時代を築いた大選手に対して、純粋に惜しんだものだと思う。私も素直に感動した。

引退会見は、まさにイチローらしい言葉のオンパレードであった。
「悔いはないですか?」との問いかけに、「あのようなものをみせてもらい、悔いなどあろうはずもない」
一選手の引退に、ここまでしてもらい、感無量であったに違いない。

45歳のこのイチローに、正直メジャーリーグのレベルの打撃、守備はほとんど期待できなかった。だから、公式戦に本来ならば有望な若手を抜擢すべきだという声も多くあった。その意見も一理はあろう。
だけど、メジャーリーグのペナントレースは、勝ち負け以上のものがあるということを、伝えたかったのではないか?勝ち負けのみにこだわるだけではない。必要なのは何が美しく、何が感動させるのか、ではないかと。
昨今我が国で見られるような「演出された感動」等とは違う。超一流がラストシーンを美しく飾る、この尊さだって大事なのではないか。
そのことを再認識させてくれたメジャーリーグとイチローに感謝したい。

ありがとうございました。そしてお疲れ様でした、鈴木一朗さん。


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