育まれた背景 ~政治家を志す~ |
しかし彼は、軍人としての生活を続けていくことに満足していなかったようだ。母に宛てた手紙には次のように書いている。 「政治のゲームは素晴らしいゲームです。良い手が回ってくるのを待つだけの値打ちがあります。軍人の生活は知れば知るほど好きになりますが、それが私の生涯の仕事ではないことも、同じように強く確信しています。」 彼が本を真面目に読み始めたのはこの頃からであった。母が軍事専門書を読むように奨めたのに対して、彼は自分の教育が既にハロー校の頃から「精神を狭くし、一本の軌道に乗せるようになっていた」ことを残念に思うと書き送っている。 彼が軍人は「私の生涯の仕事ではない」と言う見切りをつけたのは、一つの自由主義と民主主義の発展の結果、戦争はなくなってしまうのではないかと考えたからであった。イギリスが最後に参加した大戦争は半世紀近く前のクリミア戦争とインドの大反乱であり、それ以後は小規模な植民地戦争しかなかった。彼はこれらの戦争で弾丸の下をくぐった古参の将校たちを羨んだ。この幸運な男には「後光がさしており、彼の仕えた将軍たち、彼の率いた兵卒たち、そして彼の求愛した少女たちも一致して真面目に、かつ自発的にそれを認めた」彼は認められること、そして認められるような行動をする事を熱望していた。しかし戦場において勲功を挙げられる時代はもう終わったのかもしれなかった。
チャーチルは一人の同僚の将校と語らい、8か月の勤務を終わって2か月半の休暇を得ると(軍人の休暇は他の職業に比べて臂臑に長かった)、キューバに観戦に出かけることにしたのだ。
イギリス人によくあるように、彼もアメリカ社会は「卑俗」であるという結論を下したが、それでもこの母の国の活力に一種の共感を感じた。「アメリカ国民を一人の大柄で華美な青年と考えてみよう。彼はいたるところで人の感受性を踏みにじり、ありとあらゆる不作法を働く。年齢も単なる伝統も、何らの敬意を引き起こさない。しかし、自分の仕事はさわやかな新鮮さで処理するから、それが地上の古い諸国民を羨望させることになるかもしれない。」これが彼とアメリカとの最初の出会いだった。 |